マネジメント

考える病院経営③「概念化能力について考える」

概念化能力について考える

前項で経営に必要な能力について①概念化能力②しくみ化能力③実行力④情報収集力⑤コミュニケーション能力の5つを挙げた。本項では①の概念化能力について説明する。

概念とは何か。

概念という言葉を辞書で引くと、以下の様な言葉で表現される。

1 物事の概括的な意味内容。「概念をつかむ」「文学という概念から外れる」

2 形式論理学で、事物の本質をとらえる思考の形式。個々に共通な特徴が抽象によって抽出され、それ以外の性質は捨象※1されて構成される。内包※2と外延※3をもち、言語によって表される。

※1捨象 事物または表象からある要素・側面・性質を抽象するとき、他の要素・側面・性質を度外視すること

※2内包 論理学で、概念が適用される事物に共通な性質の集合。例えば、学者という概念の内包は「学問の研究者」など。⇔外延。

※3外延 論理学で、概念が適用される事物の集合。例えば、惑星という概念の外延は水星・金星・地球・火星・木星・土星など。⇔内包。

出典:デジタル大辞泉

いろいろ難解な用語を含んだ説明であるが、要するに、複数の物事のそれぞれのもつ共通しない要素を省いて共通に持った本質的な要素を抽象して捉えることと言える。

以降、概念化能力を理解するために様々な角度から説明していく。

①概念化能力は 抽象化←→具体化の往復能力

概念化能力は共通に持った重要な要素を抽象する能力が関係するが、この抽象化能力は具体化能力と表裏一体とも言える。例えば、循環器科、呼吸器科、消化器科と並んでいる場合は外科手術を中心としない内科であると抽象化が可能であるが、抽象化が可能であるのは内科には循環器科や呼吸器科や消化器科があり外科手術を中心としないことを知っているから可能とも言える。すなわち具体的な物事を抽象化できるということは、抽象的な物事から具体的な事例を取り出す力にも通常長けている。

書籍「賢さをつくる」では、抽象化能力をインプット力とし、具体化能力をアウトプット力としている。例えば数学を勉強するとき、足し算の例をたくさん経験することにより、はじめて出された数字の組み合わせの足し算も回答できるようになる。これは足し算の本質的な部分を抽象化してインプットしてから、具体的な問題の解決にアウトプットしているといえる。

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また、具体と抽象の往復が上手い事を頭が良いと表現しており、頭が良い人は、具体と抽象の距離が長い、すなわちどれだけ大きな程度で抽象化できるか、どれだけ細かく具体化できるか、及び具体化と抽象化のスピードが速く、回数が多い人としている。

具体と抽象の距離が長いとはどういうことか、医療行為というものについて考えることで自分なりの解釈で説明したいと思う。

思い切り具体的=現実的に語るならば、医療行為は医療従事者が生活するためにお金を稼ぐ行為の一つと言える。

一段抽象度を上げると、医療行為は医療従事者として生きていくために必要な行為であると表現が可能だろう。これには金銭的な要素もあるが、自己実現的な要素も含まれる。

更に言うならば、医療行為で救われた人が、社会に於いてより長く活躍したり、患者の周辺の人々に影響することができると考えるならば、医療行為というのは医療を受けた方やその周囲の活躍等を通じて世の中をよくする行為の一環であると言えるだろう。

更に拡大して考えるならば、こうした人の命や生活を守る行為という物の重要性を伝える行為を通して人を害するのではなく人を救う行為というのは素晴らしいという価値観を普及する事につながり、これにより医療行為というのは世の中を平和に導く行為とも言えるかもしれない。実際、国際的な医療支援というのは人々の心を打ち、国家間でも友好的な外交手段の一つになっている。

「賢さをつくる」ではカッツモデルにも似た形式でプレイヤー、マネージャー、リーダーの役割を具体と抽象を当てはめて下記の様に表現している。

先だって具体と抽象の往復が上手い事を頭が良いと表現したが、いい組織メンバーは階層を自由に移動する、という言葉とほぼ同義で捉えて良いと考える。私が官僚として厚生労働省で勤めていた時にある上司が、上手く仕事を進める上では、2つ上の職位の視点で物事を考えることが重要だと語っていた。これは正にいい組織のメンバーは階層を自由に移動する、ということを言っていたのだと思われる。具体的な業務・作業の視点を持ちつつ組織全体を見ることもできる様になるために必要な素養であるといえる。

抽象化←→具体化の往復能力が経営の何に役立つのかまとめると

  • 抽象化具体化の往復が得意だと、組織やプロジェクトの理念の構築やそれを制度に落とし込むことが可能となり、組織の文化づくりに貢献できる。
  • リーダーは現場の視点を持って意思決定を行なうことができ、部下はリーダーの視点を持って全体最適な行動ができる。

 

②概念化能力は次元を上げる能力

概念化能力は複数の事象が存在する時に、それらを俯瞰して関係性を把握する能力とも言える。これはメタ認知、という言葉を用いることがある。2次元平面上では対立している様に見えても、3次元で見ると二つとも上昇方向に向かっている、という事は良くあることではないだろうか。

概念化能力は、コンフリクトマネージメント、すなわち個々や部門間の衝突を解決するときにも役に立つ。組織を運営していく上で、衝突する時も度々あるが、そのような時、どちらの言い分もある意味で正しい場合がある。このように、お互いの正義がぶつかる様な時は、次元を上げて考えること、間違っているのは今いる次元であると考えることが解決の糸口になることがある。正に先だっての項で記したヘーゲルの弁証法的な考え方で、「両方とも正しいとしたら?」と問を立てて考えて見る事が重要になる。

例えば人事要求に際して、ある診療部門で、医師数の増員要求がある一方で看護師の増員要求もあり、予算が限られるため両方満足させることができない時に、次元を一つあげて考える、すなわち双方共通に持つ本質的課題について考えると、増員要求の根本には部門での超過勤務や業務負担が大きいことが背景にあり、根本問題としてなぜ業務負担が大きくなっているか考えると、不適切な業務フローであったり、非効率的で慣習的な業務の決まり事があったりして時間を取られることがそのまた背景にあった、それに対して業務改革支援や事務員を当てて双方の根本課題を解決することにより、増員が必ずしも不要になった、というケースもある。

次元を上げる能力が経営の何に役立つのかまとめると

  • 組織や事業について俯瞰・メタ認知ができることにより、組織全体の関係性を把握することができる
  • 近視眼的な見方ではなく本質的な真の課題へアプローチできる
  • 世の中の流れや内外の位置づけを把握して戦略的に意思決定、行動することができる

 

③概念化能力は次元を下げる能力を伴う

これは抽象的なものをいかに具体化できるかという能力といえる。

例えば、診療報酬の算定要件に関する説明文には解釈の余地がある。こういったルールの運用に当たっては具体的にどういうケースならば説明文が当てはまるかを考える力が必要になる。診療報酬算定要件と疑義解釈は法律と裁判での判例の関係性と捉えることができる。

すなわち、法律に基づいて、各事例に法律を当てはめて具体的な判決を下す枠組みと、診療報酬算定ルールを現場に当てはめて算定が可能かどうかを判断する枠組みは類似性があり、判断の具体例として法律では裁判の判例が、診療報酬では疑義解釈が示されている。

※刑法などの法令の解釈には罪刑法定主義という考え方があり、条文で書いてあること以外は罰することができない。診療報酬算定要件と疑義解釈は裁判と判例の関係性と捉えることができる。遡及処罰の禁止=過去に遡って罰してはいけない。明らかに間違いであった場合を除き、解釈の範囲と取れる。

次元を下げる能力がどう経営に役立つのかまとめると

  • 抽象的な内容を実践に落とし込む時に、どうすればふさわしく行動できるか判断が可能となる。
  • 全体的な社会の流れや政府の方針は多くの場合は抽象的であり、それをくみ取って適切に行動できることは勝ちやすい環境で戦うためにも重要な素因。
  • 組織の戦略を戦術として現場で展開できる能力は現場運営していく上でも重要な能力。

 

コラム 概念化能力とは諦観する力である

概念化能力の理解を深めるために、諦観、という言葉についても知っておきたい。

「帝」とは垂れ下がるものをまとめるさまを表しており、「言」は「事」と同語源であり、ことばで表現される思考・意識の対象となるものや、現象・行為・性質など抽象的なものをさす語である。諦はあきらめると読むがこれは「明らめる」と書くことができ、諦観とは本質をはっきり見きわめることを意味する。概念化能力とは諦観する力と言うこともできる。

④概念化能力は論理的思考能力と水平思考能力を含む

概念化能力を説明するときに、論理的思考能力と水平思考能力を含んでいると説明されることがある。

論理的思考とは、情報を決められた枠組みにしたがって整理・分析するさまざまなスキルの集まりを指す。これらを使うことによって、複雑なものごとの因果関係を明快に把握したり、問題に対する有効な解決策を導き出したりすることが可能となる。

水平思考とは、ある問題に対し、今まで行われてきた理論や枠にとらわれずに、全く異なった角度から新しいアイデアを生もうとする考え方である。英国のデボノが1967年ころ唱えた。

それぞれの例について簡単にまとめる

論理的思考

演繹法

多くの特殊的な事実から蓋然的(がいぜんてき)に真の一般的な原理、法則を発見する研究方法。デカルトが哲学の方法論として創始。

妥当な進め方であれば正しさが保証される。確実性を求める場合に向く。

繹・・・・・・糸を引き出すという意味

例1 前提1:AならばBである。 前提2:Aである 結論:Bである

例2 前提1:生物は皆いつか死ぬ 前提2:人間は生物である 結論:人間はいつか死ぬ

帰納法

ある前提から必然性をもって,段階的に結論を導く思考方法。

帰納法に対する概念。フランシス=ベーコンによって創始され,J. S. ミルによって大成されるまで,イギリス経験論の論理的方法論とされた。情報量が増え、正しさは保証されない。経験から真理を考察するのに用いられているため、仮説検証するのに向いている。

例1 前提1:a1はPである 前提2:a2もPである 結論:(おそらく)すべてaはPである

例2 前提1 正三角形ならば○になる 前提2:正三角形を縦に伸ばしている 結論:正三角形を縦に伸ばしているならば(恐らく)楕円になる

(例2は広義には帰納だが、狭義にはアブダクションという)

MECE

「Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive」の略で「漏れなく、ダブりなく」という意味。MECEを使って思考すべき事項の枠組みを定める。

主に以下の様なフレームワークがある

  • 5W1H
  • 現在・過去・未来
  • PEST Policy Economics Society Technology
  • 3C Customer Company Competitor
  • 4P  Product Price Promotion Place
  • SWOT Strength Weakness Opportunity Threat

ロジックツリー

問題などについてツリー状に分解し、その原因や解決策を論理的に探すためのフレームワーク。

4象限マトリクス

物事の立ち位置を把握し、対策を考えるのに適したフレームワーク。SWOT分析もこれにあたる。

水平思考

ランダム発想法

物事を無作為に選び(あるいは辞書を引き無作為に名詞を選んでもよい)、興味分野と関連付けて発想を広げるというもの。

刺激的発想法

ある物事に対して、こうであったらいいとの希望、ある部分を誇張してみたらどうなるか、あるいは逆にしてみたら、なくしてみたら、何かと一緒にしてみたらなどの一覧を作り、その中で最も突飛なものを選び新しいアイデアの元にする方法である

挑戦的発想法

ある物事に対してそれがなぜ存在するのか、あるいは何のためにそうなっているのかを考えることで、新しいアイデアを生み出す方法。

例えばコーヒーカップの取っ手がなぜあるかを考えてみる。その結果、取っ手がないと熱くて持てないからであろうと考えたとする。ならばコーヒーカップに取っ手を付ける代わりに熱が伝わらない指部分の持ち手や、ビアホルダーのように分離できる持ち手を付けてもいいのではないかという新しいアイデアの源になる。

概念拡散発想法

ある概念を他の事物に広く応用できないかと検討してアイデアを生み出す。

反証的発想法

広く支持されている考えは間違いであると考え、明らかで言うまでもないと考えられていることに疑問を呈し、説得力のある反証を試みることでアイデアを生み出す。

オズボーンのチェックリスト

  1.  転用 新しい使い道は?他分野へ適用はないか?
  2.  応用 似たものはないか?何かの真似はできないか?
  3.  変更 意味、色、働き、音、匂い、様式、型を変えれないか?
  4.  拡大 より大きく、強く、高く、長く、厚くできないか? 時間や頻度などかえれないか?
  5.  縮小 より小さく、軽く、弱く、短くできないか? 省略や分割できないか?何か減らすことができないか?
  6.  代用 人を、物を、材料を、素材を、製法を、動力を、場所を代用できないか?
  7.  再利用 要素を、型を、配置を、順序を、因果を、ペースを変えたりできないか?
  8.  逆転 反転、前後転、左右転、上下転、順番転、役割など転換してみてらたどうか?
  9.  結合 合体したら?ブレンドしてみたら? ユニットや目的を組み合わせたら?

これらはBPR(Business Process Reengineering)をするときにも必要になる考え方である。

以上、論理的思考と水平思考は経営にどう役立つのかまとめると

  • 情報を整理する能力につながり、適切な戦略や戦術を立てることができる。今後取り扱うしくみ化能力、実行力、情報収集能力、コミュニケーション能力にもつながる力。
  • 課題解決をするときに具体的な解決策を立案するのに役立つ

どのように概念化能力を身につけるか?

それではどのように概念化能力をみにつければ良いだろうか?いくつか提案してみたい。

コンセプチュアル・スキルを高める問いかけ

  • ① 他に関係するものはないか?
  • ② 他に影響する(受ける)ものはないか?
  • ③ もっと広い視野から見ることはできないか?
  • ④ 1年後、3年後、n年後、それはどうなっているか?
  • ⑤ もっと長期的な視点からみることはできないか?
  • ⑥ 因果関係・相関関係は本当にそうなのか?
  • ⑦ ヌケ、モレ、ダブリなどはないか?
  • + 我々はなぜ何処に向かっているのか

これを更に抽象化すると

  • 〇 空間や関係性について考えている ①②③⑥⑦
  • 〇 時間を踏まえて考えている ④⑤
  • 〇 目的について考えている

といえる。

コンセプチュアルスキルを高める方法

  • 1.リーダーシップを観察する。
  • 2.課題をケーススタディにする。
  • 3.外部に知識を求める。
  • 4.業界の最新情報を入手する。
  • 5.新しい実践をする。
  • 6.同僚と概念について話し合う
  • 7.メンターを見つける。
  • 8.組織について学ぶ。

 

これを更に抽象化すると

  • 新しいものについて触れ取り組む 外部に知識を求める、業界の最新情報を入手する、新しい実践をする
  • 抽象化を実践する 課題をケーススタディにする、同僚と概念について話し合う
  • 俯瞰し相対化する リーダーシップを観察する、組織について学ぶ、メンターを見つける、外部に知識を求める

といえる。

以上をまとめると、コンセプチュアルスキルを身につけるためには、

時間、空間・関係性、目的について考えて、新しい物事に触れて取組み、抽象化を実践し、俯瞰し相対化することが大事ではないかと言える。

 

終わりに

以上、概念化能力について様々な角度から説明し、どうすれば身につけられるかについての提案を記した。

概念化能力は他の能力の基礎となる能力なので身につけていく事が望ましいと考えられる。

前回までの記事

考える病院経営①「考える」ということについて – EUZEnホームページ (euzen8.com)

考える病院経営②「経営とはなにか考える」 – EUZEnホームページ (euzen8.com)